薬局の数がコンビニエンスストアよりも多く、少子高齢化が深刻な台湾にあって、旧来型の薬局はおむつを主力商品とする商法からいかに脱却するかが死活問題となっている。
「惠生大藥局」を再生するにあたり、クライアントが掲げた目標はライフスタイルを提案する場所としての薬局であった。薬を売るだけではなく、健康的な暮らしをサポートする。 一般的な商品売場や調剤室のほか、健康診断コーナーやお茶のスペース、お年寄り向けジムなどを設け、AIを駆使した遠隔健康管理や物理療法、高齢者のためのヘルスケア教室などのサービスを地方政府や協賛企業と共同して行う。
そのための空間として、まちなかの公園がヒントになるのではないかと考えた。お年寄りが集まってダンスや体操、太極拳などを楽しんでいる姿は台湾における日常の光景だ。機能や動線がある程度整理されつつ、自然がもたらす自由さを享受できる公園。その空間の持つ質を新しい薬局にも引き継げないかと考えたのである。
壁は極力曲面を用い、自然素材を使用している。上着を脱ぎ、より裸に近い状態で空間と向き合う検診や運動には人体をやさしく包み込むかたちや素材が相応しいと考えた。逆に外装は堅牢なコールテン鋼で構成されている。台湾の強烈な風雨ににあってもメンテナンスフリーなことを意図しつつ、経年変化を楽しめる材料であることを重視している。人間も同様なのではないか。老化を覆い隠すのではなく、美しく、素晴らしいものとしてありのままを見せるというコンセプトは新生「惠生大藥局」の方向性とも合致していると考えた。 また、室内外を隔てる建具を回転扉とすることで、アーケードにたいして全開放することを可能としている。台湾中南部の温暖な気候を考慮し、ディテールにもあえて気密性を求めていない。たとえ窓を閉め切っていても外気を感じられる場所としたかったからである。この主張にはクライアントとの合意形成に時間を要したが、今となっては新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、たいへん感謝されている。
延べ面積
289.46㎡
竣工
2020年3月
内装設計監理
佐野健太建築設計事務所
担当
佐野健太
黃羽韓(元所員)
内装施工
研亦企業社